交通事故における後遺障害に関する逸失利益
■ 後遺障害に関する逸失利益とは?
交通事故における後遺障害に関する逸失利益とは、交通事故によって後遺障害が残った場合、後遺障害によって、収入が減少した額をいいます。逸失利益は、治療費、休業損害、入通院慰謝料等とともに、交通事故の被害者が受ける損害の一つです。
交通事故の被害に遭ってしまった場合には後遺障害が残ってしまい、それによって全く仕事が出来なくなってしまったり、仕事に支障が出てしまうことがあります。
そのような場合に、収入の減少額を逸失利益として、相手方や保険会社に対して請求することができます。
■ どのようにすれば、後遺障害が認定される?
後遺障害は、主に、損害保険料率算出機構によって後遺障害等級認定がなされた場合に、認められます。
後遺障害等級認定の申請には、相手方の任意保険会社を通じて行う「事前認定」と被害者やその代理人弁護士が相手方自賠責保険会社を通じて行う「被害者請求」の2つがあります。
事前認定では任意保険会社に任せてしまうので手間がかからないというメリットがあります。
しかし任意保険会社は出来る限り保険金を安く抑えたいため、被害者にとって不利な後遺障害の認定がなされるリスクがあります。
一方、被害者請求の場合は申請に手間がかかってしまいますが、より有利な後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。
なお、損害保険料率算出機構によって後遺障害と認定されなくても、損害賠償請求訴訟を提起することにより、裁判所が後遺障害と認定することが、まれにあります。
■ 逸失利益の算定方法
後遺障害逸失利益は、
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
により算定します。
後遺障害によって、収入が、将来の一定の期間(労働能力喪失期間)にわたって、一定の割合(労働能力喪失率)減少するので、その減少額の合計を、逸失利益と考えます。
■ 基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間とは?
・基礎収入
基礎収入とは原則として、被害者の事故前の収入です。
主夫、主婦で収入がない場合でも、賃金センサスの女性労働者の全年齢平均を基礎収入とすることができます。
・労働能力喪失率
後遺障害によって、労働能力の一部または全部が失われると考えて、労働能力が失われる割合を、「労働能力喪失率」といいます。
労働能力喪失率は、自賠責保険の定める後遺障害等級(1~14級)ごとに、目安とする値が定められており(労働省労働基準局長通牒・昭和32年7月2日基発第551号)、その値を基準として喪失率が認定されることが一般です。
なお、後遺障害が残っても、実際の収入は、事故前から減少していないことがあります。このような場合でも、「収入が減少していないのは、被害者が努力して、労働能力の喪失を補っているからだ」等の理由により、一定の労働能力喪失率を認定して、逸失利益を認めることが、しばしばあります。
・労働能力喪失期間
労働能力が失われると考える期間を、「労働能力喪失期間」といいます。通常、後遺障害の認定時(症状固定時)から67歳までの期間が、労働能力喪失期間とされますが、後遺障害の程度が比較的軽い場合は、労働能力喪失期間が3~10年に制限されることもあります。
・ライプニッツ係数
逸失利益は、労働能力の全部または一部が失われたことによる、将来の収入の減少ですので、「逸失利益という損害」が実際に発生するのは、1年後、2年後等の将来の時点です。そうであれば、「逸失利益という損害」に対する賠償金は、その損害が発生する都度、例えば、被害者が67歳になるまで毎月支払うという考え方もできます。そのような損害の賠償の仕方を定期金賠償といいますが、わが国では、逸失利益に対する賠償として、定期金賠償の方法が採用されることはまれで、一括して損害賠償金を支払うことが、一般です。
このように、将来の時点で生じる損害を、現時点でまとめて支払う場合、将来の損害額を現時点の金額に割り戻す(換算する)ことが必要になります。例えば、現時点の100円の価値と、1年後の100円の価値は、一般に等しくありません。金利を年利3%とすると(現在の民法は、そのように考えています)、現時点の100円の価値は、1年後の103円と等しいことになります。反対に、1年後の100円は、現在の100円÷1.03≒97.1円に相当します。
将来の一定の期間にわたって生じる損害の額を、現在の時点の金額(現価)に換算するときに用いられるのが、「ライプニッツ係数」です。
労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数については、国土交通省のサイトにて係数表が公開されていますのでご確認ください。
■ 労働能力喪失期間に対応する「現価」の計算が、民法改正によって変わりました
上述のように、将来の金額を現在の価値に割り戻す(換算する)ことを、「中間利息の控除」といいますが、民法改正前は、中間利息控除に用いる利率が年5%とされていました。
しかし、民法改正後は、中間利息控除に用いる利率は損害賠償請求権発生時点の法定利率とされました(民法417条の2)。
法定利率は3年ごとに見直しをする変動制が採用されており、現時点では年3%とされています。
そのため、改正民法の施行日である2020年4月1日以降に発生する交通事故の場合は、中間利息控除に用いる利率は年3%となり、民法改正前と比べて逸失利益の「現価」が増加することとなりました。
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