カスハラの対応をしてくれない会社に対して損害賠償請求はできるか

近年、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)という言葉が社会的に広く認知されるようになり、会社における対策の必要性が強調されています。
しかし、現場では従業員が顧客からの理不尽な要求や暴言にさらされても、会社が十分に対応してくれないというケースも少なくありません。
では、会社がカスハラ対応を怠った結果、従業員が心身に損害を被った場合、会社に対して損害賠償を請求することはできるのでしょうか。

企業の安全配慮義務とは

使用者(会社)は、労働契約法第5条に基づき、労働者が安全に労働できる環境を整える「安全配慮義務」を負っています。
これは、業務上の危険を防止し、労働者の生命・身体・精神の安全を守るためのものであり、物理的な危険だけでなく、精神的なハラスメントからの保護も含まれます。

カスハラも安全配慮義務の対象

カスハラは、顧客からの暴言・暴力・過度なクレームなど、従業員の精神的負荷を増大させる行為です。
これに対して会社が何らの対応もせず、問題を放置した場合、安全配慮義務違反が問われる可能性があります。

損害賠償請求の要件

会社に対する損害賠償請求が認められるためには、以下の3つの要件を満たすことが必要です。

・違法性(安全配慮義務違反):会社が適切なカスハラ対応を怠ったこと
・損害の発生:精神的苦痛、うつ病などの発症、休職、収入減など
・因果関係:会社の安全配慮義務違反と損害との間に因果関係があること

安全配慮義務に違反したかどうか

3つの要件のうち、最も問題となるのは、会社が安全配慮義務に違反したかどうか、つまり、適切なカスハラ対策を行ったといえるかどうかだと考えられます。
例えば、東京地裁平成25年2月19日判決・判例時報2203号118頁は、看護師が夜間勤務中に入院患者から暴行を受け傷害を負ったことについて、病院経営者は、「不穏な患者による暴力行為があり得ることを前提に、看護師全員に対し、ナースコールが鳴った際、(患者が看護師を呼んでいることのみを想定するのではなく、)看護師が患者から暴力を受けている可能性があるということをも念頭に置き、自己が担当する部屋からのナースコールでなかったとしても、直ちに応援に駆けつけることを周知徹底すべき注意義務を負っていた」とした上で、病院経営者は、そのような注意義務を怠ったとして、安全配慮義務違反を認めました。
一方、東京地裁平成30年11月2日判決(平成29年(ワ)第29254号)・D1-Law.comは、スーパーマーケットの従業員(原告)が、顧客の暴言等があったにもかかわらず、経営者が適切な措置をとらなかったとして、安全配慮義務違反を主張しましたが、判決は、経営者が、原告を1週間、別の店舗で勤務させる等して、2ヶ月程度、問題の顧客とのトラブルを鎮静化させたこと、問題の顧客に対して、迷惑行為が続くのであれば入店を断ると、伝えたこと等を理由に、経営者の安全配慮義務違反を認めませんでした。

まとめ

カスハラは「顧客第一主義」の陰で長らく軽視されてきた問題ですが、現在では会社の対応責任が明確に問われる時代となっています。
従業員が心身に損害を被った場合、会社が適切な対応をしていなければ、会社に対して損害賠償請求をすることは法的に十分可能です。
泣き寝入りすることなく、まずは自身の状況を整理し、必要に応じて法律の専門家に相談することをおすすめします。
横谷法律特許事務所では、労働問題に関するご相談を承っております。
お困りの方は、お気軽にお問い合わせください。