『出張中に怪我をすると必ず労災認定される?要件を詳しく解説』
出張先で転んでしまい怪我をしたなどの場合、労災認定され労災保険給付を受けることができるでしょうか。
以下では、出張中に怪我をすると労災認定されるのか、その要件について解説していきます。
労災認定の要件とは?
労災認定されるためには、労働者の負傷や疾病、障害又は死亡(以下、「傷病等」といいます)が「業務上」の事由により発生している必要があります(労働者災害補償保険法7条1項1号参照)。
この「業務上」の事由に基づいて発生した災害を「業務災害」ということがあります。
そして、労働者の傷病等が業務災害と認められるためには、①業務遂行性と②業務起因性という2つの要件を満たしている必要があります。
①業務遂行性
業務遂行性は、災害時に労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にあることを、いいます。
②業務起因性
業務起因性は、業務が原因で災害が発生したことを、いいます。
出張時のこれら2つの要件ですが、業務遂行性については、特別の事情がない限り、出張の過程全般について事業主の支配下にあるといえることから、出張の過程全般について業務遂行性があるとされます。
ただし、積極的に私的行為を行っている(例えば、宿泊先ホテルに到着後、再びタクシーで外出し、スナックで飲酒等した後、ホテルに戻る途中で交通事故に遭った場合等)などの例外的な事情がある場合には、業務遂行性が否定されることがあります。
また、業務起因性については、例えば、出張中の、それ自体としては私的な行為に際して発生した災害についても、その行為が出張に通常伴うものである限り(例えば、出張中の食事で食中毒になった、宿泊先のホテルで転倒して負傷した等)、業務起因性が認められます。
労災認定されるケース
例えば、出張先の宿泊施設の浴場で足を滑らせて転倒したというケースであっても、業務遂行性、業務起因性が否定されないため、労災認定されるのが通常です。
労災認定されないケース
例えば、出張先の居酒屋などで泥酔している際の怪我、出張先までの経路を外れて観光地等へ行った際の怪我等は、積極的な私的行為に際して発生した災害といえるため、業務遂行性が否定されることから労災認定されないと考えられます。
微妙なケース
労災認定されるかどうか微妙なケースもあります。
従業員が出張時の宿泊先の旅館で夕食時に、同じく出張した同僚3名と飲酒した後、旅館の階段で転倒し、これによる傷害が原因で死亡した事案で、裁判所の判断が分かれました。
労働基準監督署長が労災認定しなかったため、遺族が労基署長の労災不認定の処分の取消しを求める訴訟(取消訴訟)を提起しました。第一審の大分地方裁判所は、事故は労働者が飲酒により酩酊していたため発生したとして、業務起因性を認めず、労基署長が労災認定しなかったことは妥当と判断しました(大分地裁平成4年3月2日判決・訟務月報38巻10号1905頁)。これに対して、控訴審の福岡高等裁判所は、労働者が旅館で夕食時に飲酒したことは、「宿泊を伴う業務遂行の為に四名で出張先に赴き、本件客室のような場所で寝食をともにするというような場合に、通常随伴する行為といえなくはない」等として、上記転倒事故の業務起因性を認め、労災認定すべきと判断しました(福岡高裁平成5年4月28日判決・判例タイムズ832号110頁)。
大分地裁が、労働者が飲酒により酩酊したことを重視して業務起因性を否定したのに対して、福岡高裁は、出張時の宿泊先で同僚と飲酒することが出張時によくあることを重視して、業務起因性を肯定したといえます。
このように、労災認定されるかどうか微妙な事案もあります。
まとめ
このように、出張中に怪我をした場合、労災認定されるときとされないときがありますので、その判断が難しい場合は、専門家である弁護士にご相談されることをおすすめします。
労災認定については、横谷法律特許事務所までお気軽にご相談ください。