コロナウイルスの致死率(Infection Fatality Rate)

1 一般に、感染症の致死性を評価する指標として、感染者致死率(Infection Fatality Rate、IFR)が用いられる。これは、文字通り、ある感染症に感染した人のうち、その感染症により死亡した人の割合である。

似たような数値にCase fatality rate(CFR)がある。これは、ある感染症であると確定診断がついた患者のうちで、その感染症により死亡した人の割合である。つまり、IFRでは分母となるのが全感染者であるのに対して、CFRではその感染症であると確定診断がついた患者が分母となる。新型コロナウイルスの場合、感染しても無症状の人が多数いるとされるが、そのような人は、医療機関を受診して確定診断されることは少ないであろうから、CFRの分母には入ってこないことになる。したがって、新型コロナウイルスの「怖さ」を評価するためには、CFRでみるよりも、IFRでみる方が妥当と考えられる。

IFRを算出するためには、検査によって感染が確認された人だけではなく、(検査で感染が確認されていない人も含む)感染した人の総数を推定しなければならない。感染者の総数は、ウイルスに対する抗体を保有しているかどうかの調査(抗体保有調査)によって、推定することができる。つまり、特定のウイルスに感染することにより、体内にそのウイルスに対する抗体ができるので、ある人が、その抗体を保有しているかどうかで、その人がそのウイルスに感染したことがあるかどうかがわかる。

2 厚生労働省は、令和2年12月14日から同月26日までの間に、東京都、大阪府、宮城県、愛知県、福岡県の5都府県の合計約1万5千人の一般住民を対象に、抗体保有調査を実施した。その結果、東京都1.35%、大阪府0.69%等の上記各都府県の住民の抗体保有割合が、判明した(https://www.mhlw.go.jp/content/000761671.pdf)。

この抗体保有割合に、各都府県の人口を掛けることにより、各都府県の感染者数(それまでに新型コロナウイルスに感染したことのある人の総数)を推定できる。そして、抗体保有調査が実施された期間までに新型コロナウイルスにより死亡した人の総数を、感染者数で割ることによって、IFRが算出される。これによれば、上記の5都府県での新型コロナウイルスのIFRは、0.3~0.9%と推定される。

 

コロナ 感染者致死率(infection fatality rate、IFR)の比較
抗体保有割合(A)人口(B)感染者数死者数(D)IFR
R2.12.14~
R2.12.26
R3.1.1
時点
(C=A×B)R2.12.27
まで累計
D÷C
東京都1.35%13,960,236188,4636630.35%
大阪府0.69%8,815,19160,8255440.89%
宮城県0.14%2,290,9153,207140.44%
愛知県0.71%7,536,63953,5102000.37%
福岡県0.42%5,108,03821,4541170.55%
注1)福岡県の人口は令和2年9月1日時点
注2)死者数(D)は、抗体保有検査実施期間の中間日12月20日の
   1週間後とした(John P A Ioannidis”Infection fatality rate of COVID-19
     inferred from seroprevalence data” 参照)。

 

3 ここで、一般に、季節性インフルエンザのIFRは、0.01~0.03%程度とされる。したがって、上記の推定値によれば、令和2年12月時点での新型コロナウイルスの感染者致死率(IFR)は、大雑把に言って、季節性インフルエンザのおよそ十倍から数十倍となる。

4 上記は、あくまでも令和2年12月時点でのIFRの推定値である。

例えば、上記では、コロナウイルスの抗体を保有している人をコロナウイルスに感染したことがある人と見なしているが、COVID-19有識者会議の「新型コロナウイルス感染症の血清疫学調査の調査結果とその解釈」では、「『(体内に)抗体が存在する』ということは、検査前確率や各検査の感度・特異度を踏まえた上での議論になるものの、『過去に感染した可能性が高い』ということを意味するのみで、それ以上でもそれ以下でもない」とされる。

以上