総会決議取消しの訴えにかかる訴えの利益を認めた最高裁判決

総会決議取消しの訴えにかかる訴えの利益について、いわゆる「瑕疵連鎖説」(最高裁平成2年4月17日判決)を前提として、最高裁昭和45年4月2日判決とは異なる最高裁判決がなされました。

私が担当した事件で、先日、最高裁の判決が言い渡されましたので、紹介致します。

1 事案

 ⑴ 上告人X(私の依頼者)は、中小企業等協同組合法により設立された被上告人Y協同組合の組合員です。

 ⑵ 平成28年5月にY協同組合の通常総会で同組合の役員(理事及び監事)の選挙(この総会での理事、監事の選挙を、それぞれ以下、「本件選挙1」、「本件選挙2」といいます)が行われましたが、定足数を満たさなかったことから、Xは、上記役員選挙の取消しを求める訴えを提起しました(以下、この訴えの係る請求を「本件取消請求」といいます)。

   第一審は、役員選挙の取消しを認めました。

   第一審の判決が言い渡された後の平成30年5月Y協同組合の通常総会が開催され、本件選挙1及び2で選出された理事及び監事全員が任期の満了により退任したとして、新たに理事を選出する選挙(以下、「本件選挙3」といいます)と監事を選出する選挙(以下、「本件選挙4」といいます)が行われました。

 ⑶ 控訴審は、以下のように判断して、本件取消請求を却下しました。

   本件取消請求に係る訴えの係属中に、本件選挙1及び2で選出された理事及び監事全員が任期の満了により退任し、その後に行われた本件選挙3及び4で理事及び監事が新たに選任されたのであるから、特別の事情のない限り、本件取消請求に係る訴えの利益は消滅する。

   なお、控訴審において上告人Xは、本件選挙1を取り消す旨の判決の確定を条件に、本件選挙3及び4の不存在の確認を求める訴えを追加しました(つまり、取り消されるべき本件選挙1で選出された理事によって構成される理事会がした召集決定に基づき、同理事会で選出された代表理事が召集した総会において行われた、新たに理事、監事を選出する選挙は不存在となる、という主張です。以下、この追加された訴えに係る請求を「本件不存在確認請求」といいます)。

   本件不存在確認請求に係る訴えについて控訴審は、過去の法律関係の不存在について停止条件付きで確認を求める訴えであって不適法であると、判断しました。

⑷ これに対して最高裁は、以下のように判示して、控訴審判決を破棄した上で、本件を控訴審に差し戻しました。

  ア 事業協同組合の理事を選出する選挙(先行の選挙)の取消しを求める訴えの係属中に、後行の選挙が行われ、新たに理事又は監事が選出された場合であっても、理事を選出する先行の選挙を取り消す旨の判決が確定したときは、先行の選挙は初めから無効であったものとみなされるから、その選挙(先行の選挙)で選出された理事によって構成される理事会がした召集決定に基づき、同理事会で選出された代表理事が召集した総会において行われた新たに理事又は監事を選出する後行の選挙は、いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、瑕疵があるものとなる。そして、上記の取消しを求める訴えと併合された訴えにおいて、後行の選挙について上記の瑕疵が主張されている場合には、理事を選出する先行の選挙が取り消されるべきものであるか否かが後行の選挙の効力の先決問題となり、その判断をすることが不可欠であって、先行の選挙の取消しを求める実益がある。

 そうすると、事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しを求める訴えに、同選挙が取り消されるべきものであることを理由として後任の理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合には、上記特段の事情(後行の選挙が、全員出席総会においてされたなどの事情)がない限り、先行の選挙の取消しを求める訴えの利益は消滅しない。

  イ これを本件についてみると、本件選挙1の取消しを求める訴えに、本件選挙1が取り消されるべきものであることを理由とする本件不存在確認請求に係る訴えが併合されており、上記特段の事情(後行の選挙が、全員出席総会においてされたなどの事情)は、うかがわれない。

    また、このように併合されている本件不存在確認請求に係る訴えが、本件選挙1を取り消す旨の判決の確定を条件としているからといって不適法であるとはいえない。

    以上によれば、本件選挙1の取消しを求める訴えの利益が消滅したとはいえない。

  ウ そして、本件選挙1を取り消す旨の判決が確定し、本件選挙4に瑕疵があることになれば、本件選挙2で選出された監事が現在も監事としての権利義務を有することになり得るため(中小企業等協同組合法36条の2)、依然として本件選挙2の取消しを求める実益があるから、本件選挙4の瑕疵の有無が判断されていない現時点で、本件選挙2の取消しを求める訴えの利益が消滅したとはいえない。

  エ 以上のように判断して、最高裁は、控訴審判決を破棄しました。

    その上で、最高裁は、本件選挙1の取消事由の存否等についてさらに審理を尽くさせるために、本件を控訴審に差し戻しました。

2 説明

 ⑴ 本件で問題とされたのは、会社法に関して論じられている、株主総会決議取消しの訴えに係る訴えの利益の存否です。本件で取消しの対象とされたのは、協同組合の総会における役員選挙ですが、中小企業等協同組合法は、会社法の株主総会の決議取消しの訴え等に関する規定を準用していることから(82条の10)、本件での問題については、上記にようにいえます。

   この点に関しては、昭和45年と平成11年にそれぞれ最高裁の判決がなされていますが、これらの2つの判例は、整合しないとみることもできました。

 ⑵ 最高裁昭和45年4月2日判決・民集24-4-223は、以下のように判示しました。

    「役員選任の総会決議取消の訴が係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によって取締役ら役員が新たに選任され、その結果、取消を求める選任決議に基づく取締役ら役員が現存しなくなったときは、・・・特別の事情のないかぎり、決議取消の訴は実益なきに帰し、訴の利益を欠くに至るものと解するを相当とする」

   上記判例によれば、本件における本件取消請求の訴えの利益は、「特別の事情のないかぎり」認められないこととなります。

 ⑶ これに対して、最高裁平成11年3月25日判決・民集53-3-580は、取締役等を選任する株主総会決議(先行決議)の不存在確認請求に、同決議が存在しないことを理由とする後任取締役等の選任に係る株主総会決議(後行決議)の不存在確認請求が併合されている場合の、先行決議の不存在確認の訴えの利益に関するものです。

   同判決は、取締役選任決議(先行決議)が不存在と判断される場合は、その総会で選任されたと称する取締役により構成された取締役会で選任された代表取締役が、取締役会決議に基づいて召集した株主総会における取締役選任決議(後行決議)は、その株主総会決議が全員出席総会でなされたなど特段の事情がない限り、不存在であるとする、いわゆる「瑕疵連鎖説」を前提としました。そして、先行決議の不存在確認を求める訴えに後行決議の不存在確認を求める訴えが併合されている場合、先行決議の不存在確認の訴えに係る確認の利益を認めました。

 ⑷ 上記の最高裁平成11年判決を受けて、先行する選任決議の(不存在確認ではなく)取消訴訟の係属中に、先行決議で選任された役員全員が任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によって役員が新たに選任された場合は、特段の事情がなければ、先行する選任決議の取消の訴えに係る訴えの利益は失われないと説かれることもありました(東京地方裁判所商事研究会偏「類型別会社訴訟Ⅰ(第三版)」381頁)。

   しかしながら、「株主総会決議取消しの訴えとその不存在確認の訴えとの間の法律構造の違い」(八木一洋「最高裁判例解説民事篇平成11年度303頁)等を理由として、先行決議の取消訴訟に、先行決議が取り消されるべきものであることを理由とする、後行決議の不存在確認請求が併合された場合でも、先行決議の取消請求に係る訴えの利益は認められないとする説が、多数でした。

   したがって、本件判決が、先行する役員選挙の取消しを求める訴えの利益を認めたことは、画期的といえます。

以上

本件最高裁判決は、PDFでご覧いだたけます。