新型コロナへの過剰な対応をやめるべき

1 新型コロナの第7波で新規陽性者数(感染者数)が増加しているため、医療がひっ迫しているという。これを受けて、2022年8月2日、日本感染症学会など4学会は、「限りある医療資源を有効活用するための医療機関受診及び救急車利用に関する4学会声明」を発出した。そこでは、オミクロン株にかかっても、「順調に経過すれば、“かぜ”と大きな違いはありません」等として、「症状が軽い場合は、65歳未満で基礎疾患や妊娠がなければ、あわてて検査や受診をする必要はありません。自宅療養を続けられます。」等とされている。ここで、「症状が軽い」とは、「飲んだり食べたりできる、呼吸が苦しくない、乳幼児で顔色が良い」という意味である。要するに、オミクロン株にかかっても、65歳未満で基礎疾患や妊娠がなければ、風邪と同様、自宅療養で治せるということである。
2 グラフは、過去1年間の英米仏独日の人口10万人当たりの1日の新型コロナ新規陽性者数(7日間平均)である。

現在、日本の新規陽性者数は世界一というが、新型コロナの社会に与える影響をみるためには、新規陽性者の総数でなく、人口に対する割合を考えるべきである。
人口10万人当たりの1日の新規陽性者数(7日間平均。以下同じ)でみると、現在の日本は約170人である。これに対して、英米仏独のいずれの国でも、過去1年間に、人口10万人当たり200人を上回る新規陽性者が1日に発生している。特に、フランスでは2022年7月以降も、1日に人口10万人当たり190人前後の新規陽性者が発生している。
このように日本は、上記5ヶ国の中では、新規陽性者の人口に対する割合が最低水準である。それでも医療のひっ迫が生じているのは、わが国の医療システムに何らかの欠陥があるからではなかろうか。2021年8月20日付コラム「新型コロナウイルス患者用の病床の不足」参照。
3 人口に対する新規陽性者数の割合が最低水準の日本で、医療のひっ迫が生じている原因の一つは、新型コロナに過剰に対 応しているからではないだろうか(上記の4学会の声明参照)。
⑴ 例えば、新型コロナの濃厚接触者の扱いであるが、現在、英仏独では、隔離義務は撤廃されている。
すなわち、英国では、2022年2月24日以降、ワクチン接種未了の濃厚接触者の隔離義務が撤廃された。また、陽性者の隔離義務も、同日以降撤廃された。(以上、JETROの同年2月22日付ロンドン発ビジネス短信「新型コロナとの共生計画を発表、陽性者の隔離義務撤廃へ」より)
フランスでも、2022年3月21日以降、ワクチン接種の有無にかかわらず、濃厚接触者の自主隔離は不要となった(「μ.[みゅう]ヨーロッパの個人旅行」の同年6月10日付「フランスでコロナ陽性になった時の対応:隔離期間*2022年6月現在」より)。
そして、ドイツでも2022年5月12日時点で、濃厚接触者に隔離義務は課されていない。ただし、高齢者や基礎疾患を持つ人等ハイリスクグループに属する人との接触を可能な限り減らし、市販の迅速抗原検査キットによる新型コロナ検査で毎日感染を確認することが、強く推奨されている。なお、州により隔離期間に関するルールは異なる。(以上、JETROの同年5月12日付ベルリン発ビジネス短信「新型コロナウイルス感染者の隔離期間を7日間から5日間に短縮」より)
⑵ 米国では、2022年1月4日時点で、ブースター接種を受けた者等が濃厚接触者となった場合は、自己隔離は不要で、接触から10日間、マスクを着用するものとされる。一方、ワクチン未接種等の濃厚接触者については、5日間の自己隔離と自己隔離終了の翌日から5日間のマスク着用が推奨されている。ただし、5日間の自己隔離が不可能な場合には、新型コロナウイルス感染者と接触があった日の翌日から10日間、周囲に人がいる際にはフィット性の高いマスクを着用することが必須とされる。(以上、JETROの同年1月4日付ニューヨーク発ビジネス短信「米CDC、無症状の新型コロナ感染者の自己隔離推奨期間を10日から5日間に半減」より)
⑶ これに対して、日本は、例えば広島県では、ワクチン接種の有無にかかわらず、濃厚接触者は5日間、自己隔離するものとされる(ただし、陽性者との接触等から2日目と3日目の検査で陰性を確認した場合は、3日目から解除可能。2022年7月27日より)。
日本よりも、人口当たりの新規陽性者の割合が多かった各国で、濃厚接触者の自己隔離が概ね撤廃されている(米国は、ワクチン未接種者のみが自己隔離)なかで、日本の新型コロナへの対応は、過剰ではないだろうか。
4 上述のとおり、オミクロン株にかかっても、症状が軽い場合、65歳未満で基礎疾患や妊娠がなければ、風邪と同様、自宅療養で治せる(4学会の声明)。また、オミクロン株については、60歳未満では、重症化率、致死率とも季節性インフルエンザと同じという(2022年7月24日のNHK日曜討論での山際経済再生担当大臣の発言)。さらに、新型コロナの致死率は、経済協力開発機構(OECD)加盟国中で日本が最も低い(Bloombergの2022年6月20日付「新型コロナ致死率の低さで日本がOECD首位、基本はやはりマスクか」)。
以上のことからすれば、新型コロナウイルスへの過剰な対応をそろそろやめて、季節性インフルエンザ並みとすべきである。