B型肝炎給付金請求訴訟の提起時の注意点

1.改正「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」(以下、「特別措置法」といいます)が本年8月1日より施行され(予定)、給付金請求の期限が5年間延長されるとともに、死亡又は発症後、提訴までに20年を経過した「死亡・肝がん・肝硬変」の患者等に対する給付金額が、新たに定められました(特別措置法第6条1項2、4、5号)。

 これにより、例えば、集団予防接種等によりB型肝炎ウイルスに持続感染したことが原因で、死亡し、または肝がん、肝硬変(重度)に罹患した場合の給付金額は、死亡または肝がん、肝硬変(重度)に罹患してからB型肝炎給付金請求訴訟(以下、「給付金請求訴訟」といいます)を提起するまでに、20年を経過したか否かによって、以下のとおりとなります。

 死亡または肝がん、肝硬変(重度)に罹患してから給付金請求訴訟を提起するまでに、

ケース①:20年を経過していない場合:3600万円

ケース②:20年を経過した場合:    900万円

2.ところで、20年以上も前となりますと、一般に患者のがんが判明しても、医師が、がんの告知を患者や家族にしない場合が相当あったようです(下記の「日本におけるがん患者への病名告知率の推移」[厚生労働省「第42回がん対策推進協議会」における藤原俊義参考人による資料]参照)。

 このため、例えば、給付金請求訴訟の提起の21年前に肝炎で入院し、その際、肝がんであることが判明したものの、患者さん本人や家族には、がん告知がされず、その2年後(すなわち、提訴の19年前)、ようやくその患者さんに、がんであることが告知されたとします。

 このような場合、その患者さんは、ケース①(がんの発症から20年を経過していない)として、給付金請求訴訟を提起しますが、実際には21年前の入院時のカルテには、がんであることが記載されています(給付金請求訴訟では、これまでの全ての入院時の医療記録[若しくは退院時要約]を提出することとされます)。このため、21年前の入院時のカルテによって、肝がんの発症が訴訟提起の21年前であることを、被告の国から指摘されることとなり、ケース②(がんの発症から20年を経過している)に当たるとして、給付金額は900万円とされます。

 給付金額は減少しますし、訴訟提起時に裁判所に納めた印紙のうち、82,000円分の印紙は、本来、納める必要のないものでした(請求金額が3600万円の場合の印紙代:128,000円、請求金額が900万円の場合の印紙代:46,000円)。

3.このようなことにならないように、給付金請求訴訟を提起する際には、特別措置法の給付金のいずれの条件に当てはまるかについて、患者さんご本人やご家族の記憶のみに頼ることなく、裁判所に提出するカルテ等を事前に十分チェックする(訴訟代理人にチェックしてもらう)ことが必要です。

以上