勤務先から突然「解雇する」と言われた場合、どうすればよいか
解雇について
解雇とは、会社(使用者)が一方的に労働契約(雇用契約)を解約することです。
合理的な理由なく、会社が従業員を解雇することは、認められません(労働契約法16条)。
また、会社の業績の悪化を理由とする、いわゆる整理解雇の場合は、次の4つの要件を満たさなければ、解雇は認められないとされています。
① 人員削減の必要性があること
② 解雇を回避するための努力を会社が尽くしていること
③ 解雇される者の選定基準及び選定が合理的であること
④ 会社が従業員に対して、事前に、説明・協議を尽くしたこと
勤務先から「解雇する」と言われた時に、まず大切なこと
1 辞表を書いたり、退職の同意書等に署名捺印したりしないこと
会社側は、辞めさせたい従業員に対して、辞表の提出を求めたり、退職の同意書等への署名捺印を求めたりします。辞めることに納得しないまま、これらに応じてはいけません。
万一、会社側から強く要求される等したために、納得しないまま、辞表を書いてしまった、若しくは、退職の同意書等に署名捺印してしまった場合には、辞表又は退職の同意書は本意で作成したものではないので、それらを撤回する(取り消す)旨を、内容証明郵便等で会社に通知します。
2 解雇理由の確認
上述のとおり、合理的な理由のない解雇は認められず、無効となります。このため、解雇の有効・無効を判断するために、解雇の理由を明らかにさせることが必要となります。解雇理由を明らかにさせるために、会社から、解雇の理由を記載した証明書を交付してもらいましょう。従業員の求めがあった場合、会社は解雇理由を記載した証明書を交付する義務があります(労働基準法22条)。
会社側が解雇理由を一応説明している場合でも、弁護士による交渉や、解雇を争う裁判等の手続が始まると、会社側が、解雇理由の後付をすることや、それまで説明していた解雇理由とは異なる主張をすることがあります。このため、早い段階で、具体的な事実を含めた解雇理由を明らかにさせることが重要となります。大切な証拠となりますので、必ず書面でもらうようにしましょう。
3 離職票を受け取った時に注意すべき点
会社から離職票を渡された時には、まず「離職理由」欄を確認してください。「解雇」による退職であるにもかかわらず、「労働者の判断によるもの」、つまり、従業員の自己都合による退職であると記載されていることがあります。
退職の理由が「解雇」の場合と、「自己都合」の場合とでは、雇用保険の失業給付を受ける際に大きな違いが生じますので、注意してください。(例えば、「解雇」によって退職した場合、失業給付は、離職票の提出と求職の申込みを行った日から7日間の待期期間の後に支給されますが、いわゆる「自己都合による退職」の場合は、上記待期期間満了後、更に3か月を経過しないと失業給付を受けることができません。)
解雇に対する対処方法
1 就労意思を明らかにする
解雇に納得がいかない場合には、まず、会社に対して、解雇の撤回を求め、自分には会社で就労する意思があることを書面(内容証明郵便等)で通知しましょう。
2 証拠を収集する
解雇を撤回させるために会社と交渉していくためには、早い段階から証拠を確保しておくことが、非常に重要となります。証拠として確保しておくことが望ましいものは、以下のようなものです。
・就業規則
・労働時間管理記録
・業務記録
・その他社内資料
・上司との会話を録音したテープ等
会社から交付された書面(特に雇用契約や就業規則等に関するもの)は、できるだけ保管しておくようにしましょう。労働事件では、そもそも書面化された証拠が少なく、また、証拠(証人)が会社側に独占されている場合が多いので、会社から交付された書面は、いずれも貴重な証拠となり得ます。
また、上司との会話等を録音等して、テープやDVD等に記録しておくと、貴重な証拠となります。録音等の方法をとることが困難な場合でも、会社での出来事や、上司から言われたこと、されたこと等を詳細なメモや日記等のかたちで残しておくと、証拠として活用することができます。
3 労働基準監督署や地方労働局に相談する
各都道府県労働局には、総合労働相談コーナーが設置されており、電話あるいは面談によって相談することができます。
利用できる紛争解決制度としては、
①都道府県労働局長による助言・指導
②紛争調整委員会のあっせん制度
等があります。
4 裁判手続を利用する
労働契約に関するトラブルを解決するための裁判手続には、労働審判、本訴、仮処分があります。
(1) 労働審判
労働審判とは、労働契約に関するトラブル(個別労働紛争)を迅速に解決するために整備された労働審判法に基づく手続です。そのため、比較的簡単な手続で行えるようになっていますが、弁護士等の代理人をつけずに、労働者自身が手続をするケースは、全体の15%程度のようです。
労働審判は、裁判官である労働審判官1名と、労働審判員(労使関係に関する専門的知識と経験を有する者、労使から各1名)2名とで構成される労働審判委員会によって進めらます。
原則として3回以内の期日(労働者と使用者とが裁判所に集まる機会)で審理します。
労働審判委員会は、適宜、労働者と使用者との話合い(調停)による解決を試みます。話し合いによって解決しない場合には、「労働審判」(通常訴訟における判決に相当するもの)を行います。
(2) 本訴
①地位確認訴訟
解雇が無効であり、解雇が通告された後も労働契約上の地位、つまり従業員としての地位があることの確認を求める訴訟です。
②賃金請求訴訟
解雇されて以降未払いとなっている賃金について、その間就労していなかったとしても、その支払いを求める訴訟です。
通常は、一つの訴訟で、従業員としての地位の確認を求めるとともに、未払賃金を請求します。
(3) 仮処分
解雇の効力を争って復職を求める場合、いきなり訴訟を起こすのではなく、従業員としての地位を仮に定める「地位保全仮処分」と、賃金の仮払いを求める「賃金仮払い仮処分」を同時に申し立てることができます。
賃金仮払い仮処分とは、訴訟で判決が出るまでの間、とりあえず給料の支払を受けるための制度です。裁判所は、解雇が無効である可能性が高いと判断すれば、とりあえず給料を支払い続けるよう会社に命令します。
訴訟で判決が出るまでには1年以上の期間を要することも多く、その間賃金が支払われなければ生活していくことが困難な場合、仮処分の申立てが認められます。
解雇の効力を争う場合の雇用保険からの失業給付について
裁判等で解雇の効力を争っている場合でも、雇用保険から失業給付を受けることができます。しかし、通常の手続で失業給付を受けてしまうと、「解雇(退職)を認めた」と受け取られかねませんので、仮給付として受けるようにします。
この仮給付は、裁判等で不当解雇の撤回を求めている場合、その結果、復職することができて、解雇時からの賃金が会社から支払われた際には、受給した失業給付を返還するという条件付きで、失業給付を受ける制度です。
仮給付を受ける場合には、公共職業安定所(ハローワーク)に対して、解雇の効力を争っていることを示す文書(裁判所の事件係属証明書や労働審判等の申立書のコピー等)を提出することが必要となります。
困ったときはご相談ください
解雇された際の注意点や対処方法等について、説明してきましたが、一言に解雇事案といっても、それぞれ詳細な事情は異なりますので、どのように対処するのが良いかも事案ごとに異なります。
勤務先から突然解雇され、納得がいかない場合、1人で悩まずにお気軽にご相談ください。
以上