勤務先会社が賃金を支払わない場合、どうすればよいか



1 証拠の確保
  まず、未払いの賃金を請求する前提として、賃金算定の裏付けとなる資料(証拠)を確保することが大切です。賃金算定の裏付けとなる資料としては、給与明細や給与規定等があります。また、残業代不払いのケースでは、労働時間の実績を明らかにするためのタイムカードや業務記録等も大切な証拠となります。退職金不払いのケースでは、退職金請求権の裏付けとなる退職金規定、就業規則、労働協約等を証拠として確保しておきましょう。 


2 内容証明郵便の送付
  上記の証拠を確保した上で、内容証明郵便で、勤務先会社に対して未払い賃金の支払を請求します。
  内容証明郵便とは、「誰が、誰宛てに、いつ、どんな内容の手紙を出したか」ということを、郵便局(郵便事業株式会社)が公的に証明してくれる郵便です。
  内容証明郵便には、1行20字以内、1枚26行以内で文書を作成しなければならない等、差出方法に一定の決まりがあります。詳しくは、郵便局のホームページでご確認ください。

  通知書のサンプルは、こちらです。 → 通知書のサンプル


3 労働基準監督署等に相談(申告)する

 労働者に対する賃金の不払いは、労働基準法(24条)に違反する行為で、30万円以下の罰金が科せられる犯罪です(労働基準法120条1号)。勤務先会社の賃金の不払いを労働基準監督署に申告すると、労働基準監督署が勤務先会社に対する調査を行って、賃金の支払を勤務先会社に勧告し、この勧告の結果、会社が未払い賃金を支払う場合があります。労働基準監督署に対する申告は無料です。また、匿名での申告も可能となっています。
   したがって、内容証明郵便で勤務先会社に対して賃金の支払を請求してもなお、賃金が支払われない場合には、労働基準監督署に相談しましょう。労働基準監督署に相談や申告をする際には、できれば、給与明細、タイムカード、賃金台帳、労働契約書、就業規則、勤務先会社に対して送った内容証明郵便の控え等の他、勤務先会社との交渉の経緯をメモ書きしたもの等も用意しておくとよいです。
   ただし、労働基準監督署は、未払い賃金を強制的に支払わせることまではできません。また、賃金の不払いを申告したとしても、必ずしも労働基準監督署から勤務先会社に対して、「指導」や「是正勧告」がなされるとは限りません。

⑵ 賃金の不払いは労働基準法に違反する行為ですので、まずは労働基準監督署に申告することが必要ですが、紛争調整委員会によるあっせん制度や各都道府県労働委員会(若しくは、都道府県庁の労政主管課)によるあっせん制度を利用できる場合もあります。あっせん制度は、労働者と勤務先会社との間に、紛争調整委員会等の公平・中立な第三者が入って話し合いを行うことにより、紛争の解決を図る制度です。手続が迅速で、費用がかからないというメリットがあります。勤務先会社との話し合いにより、円満に解決することを望む場合等には、上記のあっせん制度は有効な手段です。
   あっせん制度の利用を検討される場合には、お近くの労働基準監督署、労働委員会等にご相談ください。


4 裁判手続の利用
  ご自身での交渉や、労働基準監督署等の利用によっても解決しない場合には、裁判手続の利用を考えてみましょう。
  請求する未払い賃金の合計額が140万円以下の場合には簡易裁判所、140万円を超える場合には地方裁判所に「訴状」(勤務先会社に請求する内容をまとめた書面のことです)を提出します。
  裁判所には、「訴状」の用紙とその記載方法を説明した資料等も備え付けられていたり、窓口で訴訟の起こし方について説明を受けることもできますので、弁護士等に依頼せずに、ご自身で訴訟を起こすこともできます。当事務所に賃金不払いについて相談された方の中にも、勤務先会社を被告として、ご自身で裁判を起こした方がおられます。


5 未払賃金の立替払制度
  未払賃金立替払制度とは勤務先会社が「倒産」したために、賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、独立行政法人労働者健康福祉機構が勤務先会社に代わって賃金を支払う制度です。
  この制度を利用するためには、一定の条件を満たしている必要があり、また、早目に手続をとらないと立替払いが受けられないことがあります。立替払いを受けることができる未払い賃金の額にも、一定の制限があります。
   未払賃金立替払制度の詳細については、厚生労働省のホームページをご覧ください。


6 注意すること
 請求権の消滅時効
  
未払いの賃金は、いつまでも請求できるわけではありませんので、注意してください。
  未払い賃金の支払を請求できる期間は2年、退職手当(退職金)は5年と決められています(労働基準法115条)。
 遅延損害金
   未払い賃金とは別に、遅延損害金も請求することができます。遅延損害金とは、本来支払われるべき日に賃金が支払われなかったこと(債務不履行)に対する損害賠償金のことです。
   遅延損害金の利率は、勤務先会社が営利企業など「商人」の場合は年6%、そうでない場合は年5%となります。また、労働者がすでに退職している場合の未払い賃金(退職手当を除く)については、年14.6%となります(賃金の支払の確保等に関する法律6条)。


7 賃金の支払いに関する原則(労働基準法24条1項、2項)
⑴ 通貨払いの原則
    賃金は原則として通貨で支払われなければならず、物品等での現物給与は禁止されています。
⑵ 直接払いの原則
   賃金は労働者に直接支払われなければなりません。代理人への支払いや、賃金債権の譲受人への支払いは禁止されてい  ます。

⑶ 全額払いの原則

   賃金は原則として、その全額を支払わなければなりません。例えば、勤務先会社が労働者に対して損害賠償債権を有して いる場合に(労働者が会社の備品を故意に損壊した場合等)、勤務先会社が一方的に、労働者の賃金から損害賠償の金額を差引いて、その残額を労働者に対して支払うことは、許されません。
⑷ 毎月1回以上一定期日払いの原則
  賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。
  ただし、臨時に支払われる賃金や賞与等については、この限りではありません。

以上