死因解明提案義務

医療過誤(医療ミス)が争点となる裁判では、医療過誤があったことを患者側が証明しなければなりません。
例えば、患者の状態が急変したとき、病院が何の対応もしないまま、患者が死亡したとします。このような場合、裁判で医療過誤を理由とする損害賠償請求が認められるためには、患者の遺族(患者側)が、患者が死亡した原因(死因)を証明する必要があります。
なぜならば、裁判で「医療過誤があったこと」を証明するには、病院が「○○をすべきだった」にもかかわらず、それをしなかったことを、証明しなければなりません。そして、病院が「○○をすべきだったこと」を証明するには、上記の例では、患者の死因を証明しなければならないからです。
つまり、上記の例で患者側が「医療過誤があったこと」を証明するためには、病院が「○○をすべきだったこと」を明らかにしなければならず、そのことを明らかにするためには、患者の死因を患者側が明らかにしなければならないのです。

ところが現実には、患者の状態が急変して死亡した場合、病理解剖をしないかぎり、死因がわからないことが多々あります。そして、患者の遺族が患者の病理解剖を求めることはまれですから、そうすると、患者の死因がわからないために、病院に対して医療過誤の責任を問えなくなることが考えられます。
このような事態は、病院と患者側との公平の見地から問題があるとも考えられ、そのような問題意識から、一定の場合、病院側には、患者の遺族に対して、患者の死因を解明することを提案する義務(例えば、病理解剖することを提案する義務。「死因解明提案義務」または「病理解剖提案義務」といいます)があるのではないかといわれています。
これまでの裁判例では、東京地裁平成9年2月25日判決・判例時報1627-118が死因解明提案義務を認めましたが、その控訴審判決では、その事案では、病院側が死因解明提案義務を負っていたとは認められないとされました(東京高裁平成10年2月25日判決・判例時報1646-64)。ただし、控訴審判決も、一定の場合には、病院が死因解明提案義務を負うことを認めています。

以上のように、これまでの裁判例では、具体的な事案について病院が死因解明提案義務を負うことが認められたことはありません。したがって、万一、ご家族が病院などで、原因がわからずに亡くなられた場合、病院などに対して医療過誤を理由とする損害賠償を求めることを考えるのであれば、非常に難しいことではありますが、病理解剖を求めることを検討する方がよいと考えられます。

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