依頼者は、比較的軽い業務上の不祥事を理由として、長年勤務してきた会社から懲戒解雇されました。本来であれば支払われるべき、1000万円近い退職金は、懲戒解雇したから支払わないと、会社が主張しました。
 
 会社に対して退職金などを請求する訴訟を起こしました。裁判所から和解の勧告がなされ、規定による退職金額に近い金額を会社が支払うことなどを内容とする、和解が成立しました。
 
 一般に、懲戒解雇したことを理由に、会社が退職金全額を支給しないことができるのは、労働者のそれまでの勤続による会社に対する貢献を打ち消すほどの、重大な不正行為、背信行為があった場合に限られるとされます。
 
 過去の裁判例としては、酒気帯び運転で罰金刑を科せられ、郵便事業会社から懲戒解雇された労働者が退職金の支払を求めた事案では、自己都合退職した場合の退職金の約3割の支払が認められました(東京高裁平成25年7月18日判決)。
 
 また、飲食店チェーンの店長だった原告が、不正な経理処理などを理由として懲戒解雇された事案では、自己都合退職した場合の退職金の半額の支払が認められています(神戸地裁平成14年12月18日判決)。これに対して、会社の機密書類を外部に漏えいしたことを理由として懲戒解雇された事案では、会社に対する重大な背信行為であるとして、会社が退職金を一切支給しなかったことが適法とされました(東京地裁平成20年1月18日判決)。