依頼者は、出張中の昼休みに交通事故にあいました。交通事故の加害者は、無過失を主張しており、加害者の過失を立証することは、難しそうでした。このため依頼者は、勤務先会社に労災保険を適用するよう求めましたが、会社は、このようなケースでは労使保険は適用されないと主張しました。依頼者は、この事案に労災保険が適用されるかどうかについて意見を求めて、当事務所を訪れました。
 
 労災保険は、「業務上の事由・・・による労働者の負傷」などに対して必要な保険給付を行うものとされます(労働者災害補償保険法の1条)。この事案では、出張中の昼休みの交通事故による負傷が、「業務上の事由による負傷」といえるかどうかが問題となります。
 
 一般に、出張については、出張の過程の全般について、勤務先会社の支配下にあるとされます。つまり、出張中の昼休みや宿泊についても、勤務先会社の支配下にあるとされます。また、出張中の個々の行為については、それらが「積極的な私用・私的行為」である場合を除いて、「出張に通常伴う行為」とされ、それらの行為の際に負傷した場合、「業務上の事由による負傷」であると認められます。

 ここで、「積極的な私用・私的行為」とは、例えば、出張中に映画を見に行って映画館で負傷したとか、宿泊先の旅館で泥酔して騒いで階段から転げ落ちたというような場合で、これらの場合には、「業務上」であることは否定されます。
 
 この事案のように、昼休みに昼食をとるなどして過ごし、その過程で交通事故にあって負傷した場合は、「出張に通常伴う行為」の際に負傷したといえます。したがって、「業務上の事由による負傷」と認められ、労災保険が適用されることとなります。
 
 なお、裁判例としては、宿泊を伴う出張中、宿泊先の旅館で酒に酔って階段から転落し、これによる傷害が原因となって死亡した場合に、労災保険の適用が認められたものがあります(福岡高裁平成5年4月28日判決・判例タイムズ832号110頁)。
 
 このような出張中の交通事故で負傷した場合に、労災保険が適用されるかどうかは、「業務上の事由による負傷」といえるかどうかによって決まります。そして、「出張に通常伴う行為」の際に負傷したといえれば、「業務上の事由による負傷」といえます。勤務先の会社が、労災保険は適用されないと言っていても、そのまま信用しない方がよい場合もあります。