依頼者は糖尿病でしたが、その方の足のケガに対して、医師が適切な治療をしなかったため、重篤な障害が残りました。当初医師は、責任を認めませんでした。
一般に、糖尿病の患者さんは、靴ずれ、巻き爪などの小さな足のキズや、足の低温やけどが悪化し、その結果、足を切断せざるを得なくなるということが、しばしば起こります。これは、糖尿病の患者さんは、動脈硬化により血液の流れが悪くなったり(血流障害)、免疫力が低下したりして、細菌などに感染しやすくなり、このため、足の小さなキズが、潰瘍(カイヨウ。皮膚が欠損した状態で、感染を合併すると周囲が赤くなる)や壊疽(エソ。皮膚や皮下組織などが死滅して暗褐色や黒色に変色する病気)に進行しやすくなり、また、治りにくくなるからです。このような糖尿病の患者さんの、足の潰瘍や壊疽を、「糖尿病足病変」といいます。
糖尿病足病変の治療については、例えば、日本糖尿病学会の「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」では、「重症下肢虚血(潰瘍や壊疽等を伴うような重症の下肢の血流障害)を呈している患者は速やかに血管専門医にコンサルトし、血行再建術の適応について検討する」とされています。しかしながら、実際には、ガイドラインに沿った適切な処置がとられず、足の潰瘍や壊疽が進行し重症化してしまうことが、しばしばあるようで、私も、同様の相談をこれまでに何度か受けたことがあります。
上記の事例では、交渉により、相手方医師との間で示談が成立しました。
糖尿病足病変は、内科、皮膚科、形成外科など医学の複数の専門分野に関係します。それだからこそ、その治療は難しくなるともいえます。本事例では、これらの学会が作成している、各種の糖尿病足病変の診療に関するガイドラインに基づいて、相手方医師の「医療ミス(=過失)」を主張しました。一般に、医学会の作成した「ガイドライン」は、医療ミスの有無を判断する上での重要な基準となります。